Leben


by satsuki_ok

私が飲みに行く理由

込み入った事になりそうだった会議が、
思いの外はやく引けた帰り道。
ビルの谷間から、不似合いな大きな丸い月が覗いていた。
いつもなら、駅へ向かう大通りをまっすぐに、
よそ見もせずに歩いていくところだが、
今夜ばかりは、賑やかな大通りが煩わしく感じられ、
ゆっくりと月を眺めて歩きたかった。

大通りから一筋入った裏通りは、
夕方のこんな時間ですら人影もまばらで、
週末とは思えないほどだ。

道路に溢れ出るほどの観葉植物に紛れ込むかのように
ひっそりとその店はあった。
重厚な作りの木製のドアには、
金色の取っ手が月明かりに映しだされていた。
吸い込まれるように、私はその店のドアを開けた。

センスのいい生花がいけてあり、店内は控えめにジャズが流れていた。
落ち着いた店内。
カウンターに腰を下ろすと、ほどなく店のマスターらしき人物が現れた。
店内の随所に見られるさりげない暖かさが
彼の人生観そのものであるかのような
やわらかな笑顔がそこにあった。

コーヒーを注文しようとして、
ふとこのマスターのつくるカクテルを飲んでみたいと想った。
私は、いつも決まって初めての店でオーダーするように
「オススメのカクテルを一杯下さい。」と言った。
「かしこまりました」
無駄な会話のない感じも、私にはとても居心地がよかった。

静かに流れる音楽と、彼の腕から降り出される音が
耳にとても心地いい。
今日の会議の内容を少しばかり反芻しながら
タバコに火をつけた。
くゆる紫煙に目を細めた時、
控えめな色合いのグラスが、そっと目の前におかれた。

onからoffへの移行。。。

一口飲み終える頃、マスターがぽつりと話しかけてくる。
「いかがですか?」
「ああ。。この感じとてもいいね」
「それはよかった」と笑顔のマスター。
「月に誘われて、この店に来たかいがあったよ。」
と私もにっこりと微笑んだ。

ほんの少しだけ、日常から解放されて
ほんの少しだけ、自由な時間
私が飲みに行く理由
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by satsuki_ok | 2005-12-16 20:34 | ジジのひとりごと