紅葉狩り

紅葉狩りに出かけるにはいい季節になってきた。
この季節には決まって箕面の紅葉の天ぷらを想い出す。
ぼくがまだ幼かった頃、父と母と一緒にドライブに出かけたものだった。
母のつくるお重に入ったお弁当。
タバコをくゆらせながら、運転する父。
入り口にある小さな土産物の店で、
到着するとすぐに冷やし飴を飲むのが好きだった。

父が癌に冒された最期の秋も出かけた。
あれが最期のドライブになったけれど。
膵臓癌で痛む背中を押さえながら、
あの頃と同じように父は運転していた。
まだ、ぼくは免許を持っていなかったから、
運転を代わることもできなくて見ているのがつらかった。
薄々病状に感づいていた父にすれば、精いっぱいの想い出つくり。
父の病気のことは母と二人で内緒にしていたので、涙を流すことはできない。
いかにもドライブを楽しんでいるように、一生懸命話しかけたり、笑いかけたりしていた。
喉に詰まりそうになりながら、ぼくはムシャムシャと弁当を食べた。
「あんまり急いで食べたから、喉が詰まって。。」といいながら、
無理矢理食べ物を流し込み飲み込むぼくを、ただ静かに笑って父は見ていたっけな。

母はいつもと変わらず笑顔を絶やさない。
冗談まで言っては、父を苦笑させていた。
母の父への愛の強さと深さをぼくはその時改めて思い知った。
それはまるで静かなクリスタルの輝きのような愛だった。
その時の母は、ぎらつかない、浅ましくない、深い深い愛の泉のようだった。

散り際に鮮やかに彩られる紅葉。
父と母の物語の終演。
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by satsuki_ok | 2006-10-27 20:49 | 短編