Leben


by satsuki_ok

いちじくの実

あれはいくつの頃だったかしら
庭にたわわに実るいちじくに
唇をつけたその日から
私の時間は止まってしまったの

女学校へ通ったあの頃
自転車に乗れたことが誇らしくて
おてんばだって叱られたとき
真っ赤になったいちじくが
自分みたいで少し憎らしくてくやしくて
口いっぱいに頬張ったっけ

あれから何年たったのかしらと
考えることすらできなくなって
思い出すのはいちじくばかり

何も覚えていたくない
何も聞こえてはこない

おばあさんが鏡の向こうにいるわ
早くいかないとまた叱られちゃう
おかあさん、私これからどこへ行くのかしら
幼稚園のバスはまだ来ないの
もうすぐ私のお迎えが来るわ

いちじくの木のそばで
しわくちゃの顔の幼稚園生が待っている
何度も何度も同じ話を繰り返しにこやかに話しながら
母になり祖母になった娘と孫に見送られて









友人の祖母の話です。
もうすぐ100歳を迎える祖母の老人性痴呆症が進み始めて、家族だけの介護が難しくなり、デイケアに出かける時の様子です。
なぜかいちじくの実が大好きな友人の祖母へ、いちじくの季節になると、我が家にあるいちじくの実を毎年届けています。その時の様子です。
今年は、残念ながらいちじくの実が、小鳥たちに食べられてしまって届けることができませんでした。そのかわり、たくさんのブドウをいただいたので、先日届けに行きました。
友人宅にはいちじくの木がないのですけれど、祖母の育った家にはたわわになったいちじくがあったそうです。
覚えていたくない出来事や、悲しみ、苦しみを忘れることができて、友人の祖母は幸せそうでした。
愛情あふれる友人の家庭だからこそ、そうした幸せそうな笑顔が見れたのかもしれません。
それだけが救いな気がしました。

しかし、反比例するように、友人をはじめとして、家庭の人々は疲れきっていました。
少しでも力になれることができるならと、今模索しています。
父ががんで入院していた時、病院でお正月を迎えることになった父のために、お節料理を届けてくれた友人です。できる限りのことをしてあげたい。
そういう想いから、この詩は生まれました。
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by satsuki_ok | 2007-09-18 22:46 | poem