カテゴリ:短編( 4 )

紅葉狩り

紅葉狩りに出かけるにはいい季節になってきた。
この季節には決まって箕面の紅葉の天ぷらを想い出す。
ぼくがまだ幼かった頃、父と母と一緒にドライブに出かけたものだった。
母のつくるお重に入ったお弁当。
タバコをくゆらせながら、運転する父。
入り口にある小さな土産物の店で、
到着するとすぐに冷やし飴を飲むのが好きだった。

父が癌に冒された最期の秋も出かけた。
あれが最期のドライブになったけれど。
膵臓癌で痛む背中を押さえながら、
あの頃と同じように父は運転していた。
まだ、ぼくは免許を持っていなかったから、
運転を代わることもできなくて見ているのがつらかった。
薄々病状に感づいていた父にすれば、精いっぱいの想い出つくり。
父の病気のことは母と二人で内緒にしていたので、涙を流すことはできない。
いかにもドライブを楽しんでいるように、一生懸命話しかけたり、笑いかけたりしていた。
喉に詰まりそうになりながら、ぼくはムシャムシャと弁当を食べた。
「あんまり急いで食べたから、喉が詰まって。。」といいながら、
無理矢理食べ物を流し込み飲み込むぼくを、ただ静かに笑って父は見ていたっけな。

母はいつもと変わらず笑顔を絶やさない。
冗談まで言っては、父を苦笑させていた。
母の父への愛の強さと深さをぼくはその時改めて思い知った。
それはまるで静かなクリスタルの輝きのような愛だった。
その時の母は、ぎらつかない、浅ましくない、深い深い愛の泉のようだった。

散り際に鮮やかに彩られる紅葉。
父と母の物語の終演。
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by satsuki_ok | 2006-10-27 20:49 | 短編

記憶のはじまり

それは、ある日の昼下がりのことだった。
その日朝からソワソワしていた母が、
玄関のチャイムの音に背筋を伸ばして
駆け出しそうな思いを秘めながら
ぼくの手を握りチャイムを押したお客をお迎えに出た。

「今日からこの人がお父さんよ」と、
淡々と母はぼくに言った。
3才の頃、ぼくの記憶はそこから始まっている。

その人は、あの日別れた前の夫の友人だった。
名家の家に生まれながら、その家の冷たさに馴染むことができず、
身を持ち崩しかけていた次男坊。
おんなが前夫に別れ話を切り出した時、
「手切れ金を300万用意できたら別れてやる」と言ったその代金を
何も言わずそっと差し出したおとこである。
「必ず返します」というおんなに一言だけ、おとこはこう言った。
「犬猫でももらうときには、いくらかお礼をするものだ。
ましてや、ぼくはあなたを嫁にもらいたいのだから、そんなことは気にしないでいい。」
「私は、子どもをおいてはいけません。」
「子ども置いてくるようなおんななら、プロポーズしたりはしない。」

こうして、ぼくには父ができた。
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by satsuki_ok | 2006-10-07 22:59 | 短編

エピソード1


「貴方とは別れようと思います。」と静かに女は語りはじめた。
顔には、男に殴られた痣がまだ痛々しく残っている。
女から決意を秘めた気迫を感じて、男はじっと座り込んだままだ。

男の浮気は、今度が初めてのことではなかった。
家業の店の仕事もそこそこに、男はあちらこちらの女と酒を飲み、遊び歩いていた。

女がまだ置屋で働いていた頃、見初められて水揚げした旦那が亡くなる時、男に言った。
「しあわせにしてやるなら、お前に譲ろう」とそう言われて、
その旦那の目の前で土下座して誓いを立てて、プロポーズした男。
子どもが生まれた時、当時ではまだ珍しく、出産に立ち会って手をずっと握りしめていた男。
それが目の前で座っている男だ。

子どもが生まれてまもなく産後のひだちが悪く、入退院を繰り替えしていた。
やっと退院し、わが子との再会を心から歓び、
わが子を自分の手で世話できる幸せを噛みしめていた時だった。
飲み歩いたあげく、正体がわからなくなっていた男は、
女にいきなり罵声を浴びせたかと思うと、わが子に向けて包丁を投げつけた。
幸い子どもの頬を少しかすめた程度で、大事には至らなかったものの、
ホッとしたと同時に、女の中で何かが音を立ててぷっつりと切れた。

それから男の酔いが醒めた頃を見計らって、女は静かに語りはじめたのだった。
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by satsuki_ok | 2006-10-01 21:08 | 短編
神様がくれた一番大きくて大切なすばらしいプレゼント
それは、昔からずっとずっと昔から変わることなく
人が探し求めてきたもの
そして、今もこれからも欲しがるもの
それほど素敵なもの

たっくさんの人が探したし、
たっくさんの人が考えたり、話し合ったりしたけれど
なかなか見つからないんだ
けれど、一人だけ、たった一人だけ知ってる人がいた
命をかけて守り大切にした人
そして命をもいとわなかったその人は
そのものになったんだ

ぼくはいつものように机に向かっていた
どれくらいか時がたちふと目をあげると、
かわいい天使がニコニコとこちらを見て笑っていた

「何をしているの?」と天使がぼくに語りかける
「自分の気持ちを書いてるんだよ、それよりどうして君はこんなところにいるんだい?」
とぼくは聞いてみた。
「わたしたちはあなたの探しているものを教えてあげるように神様に言われてきたのよ」
「ん?何を教えるって?」
「愛のことよ、あなたは愛を何だと思っているの?」
「あったかくって」
「うん」
「やさしくって」
「うん」
「つよくって」
「うん、それから?」
「美しい・・・かな・・・?」
「そうね、愛って言うのは、いろんな人やいろんなものに化けられるから、
きっとそういったものになるかもしれないわね?
愛はね、心の中にしか住めないの。
そしてその人の言葉や仕草をとてもとてもあったかい輝いたものにさせるのよ。」
「すてきだね、ほんとうに・・。」
「そう、そういう愛をすべての人に神様は与えようと手を差し伸べていらっしゃるの。
ただ・・・その素敵なプレゼントは、なかなか見えないような仕組みになっているの。
とっても残念だわ、いつも待っておられるのに・・・」そう言って天使は少しうつむいた。
ぼくはあわてて、天使を励まそうとしたけれど、
「そうだね・・・早く気づくといいね」なんて、間の抜けた相槌しかうてなかった。
ぼく自身、それが見えていないのだから・・。
「うん、でもいつか気づくと想うわ、そのプレゼントを示してくれる人がいるから」
「??」
「一人一人神様によって多くの人たちに囲まれて守られて生きているから、
そのプレゼントは、受け取るだけでなくて、
みんなの鍵のかかったプレゼントを開けてあげることができるのよ。
今夜はそれをあなたに伝えに来たの。」
天使はそういい終えて瞬く間に去ってしまった。

神様と愛は別のものではなく、本当はひとつなんだね
あの日の天使がいつか誰かに会いに行くかもしれない。
その人も、おそらく今のぼくのように、
頑丈な鍵のかかったプレゼントを
苦心しながら開いていくようになるのだろう。
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by satsuki_ok | 2004-12-30 20:38 | 短編